その名は「マルファン」

2019年2月8日

t f B! P L


「佐藤先生、入院患者の薬ここに置いとくね~」
「ありがとうございます、猫田さん」

僕の名前は佐藤マモル。薬剤師6年目の自称「意識高い系薬剤師」だ。
うちの病院では各病棟に薬剤師が常駐していて入院患者の服薬指導を任されている。
患者の服薬管理や副作用チェック、医師への処方提案まで担当する重要な役割だ。
僕はこの病棟に来てからバイタルサインや一次救命処置などあらゆる特技を身につけた。
それから……

「おーい、今日の入院患者さんが待ってるよ」
「すぐ行きます」

いけない、また妄想にふけってしまった。猫田さんは安室ちゃんが大好きな38歳バツイチ看護師さんだ。猫田さんだからよかったものの、循環器病棟の看護師さんは命に直面することが多いため仕事に厳しい人が多い。

「今飲んでいる薬はこれだけですか?」
「はい、あと風邪を引いたので抗生物質を飲んでます」

これは降圧剤のARBと、ニューキノロン系の抗生物質だな。
検査入院で”持参薬続行”指示も出てるから、いつもの”テンプレ”パターンだ。

「これなら大丈夫です。今まで通り薬を飲んで下さい」

それにしても、スラッと背が高くて、目もどこか特徴的な人だったな。


「手術してあげてください!」
織田先生の怒号が聞こえた。いつもは温厚な循環器部長が吠えたのは初めてだ。
「マルファンよ」

ドキッとした。俺が仕事終わりにこっそりパチンコ店「マル◯ン」に通っているのがバレたのかと思ったぜ。三上看護師長は循環器看護師として20年以上の経験を持つベテラン師長だからな。

「マ、マ?」
「マルファンよ。マルファン症候群。遺伝性の疾患で骨格や眼、心臓などに様々な症状を引き起こす難病。この患者さんは大動脈瘤が大きくなっていて、大動脈解離のリスクが高いの。早期に手術が必要だから織田先生も心臓外科の先生と討論しているのよ。転院させてる場合じゃないって」


マルファンか、早速スマホで検索っと……
FDAから注意喚起?

”最近のいくつかの研究のレビューでは、ニューキノロン系の抗生物質を摂取すると動脈瘤や動脈解離のリスクが高くなるので、マルファン症候群等の動脈瘤や動脈解離疾患をともなう遺伝性疾患患者には使用すべきでない”


ゾッとした。

新人の頃に幾度となく経験したあの嫌な感覚だ。

……バカだ。俺は。

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